TRICK

2000年 7/7〜9/15 オンエア(ANB系) 全10回
金曜 23:09〜24:00(最終回のみ23:45〜24:40)

【演出】

堤 幸彦、保母 浩章、大根 仁、木村 ひさし

【脚本】

蒔田 光治、林 誠人

【音楽】

辻 陽

【プロデューサー】

桑田 潔(テレビ朝日)蒔田 光治、山内 章弘(東宝)

【主題歌】

『月光』

作詞・作曲 鬼束ちひろ

編曲 羽毛田丈史

(東芝EMI/VIRGINE TOKYO) 

【キャスト】

山田 奈緒子 ・・・・・・・・・・ 仲間 由紀恵

上田 次郎  ・・・・・・・・・・・ 阿部 寛

矢部 謙三  ・・・・・・・・・・・ 生瀬 勝久

石原 達也 ・・・・・・・・・・・・・ 前原 一輝

池田 ハル ・・・・・・・・・・・・ 大島 蓉子

ジャーミー ・・・・・・・・・・・・・ アベディン・モハメッド

照喜名 保 ・・・・・・・・・・・・・ 瀬戸 陽一郎

瀬田 一彦 ・・・・・・・・・・・・・ 遠藤 直哉

山田 里見 ・・・・・・・・・・・・・ 野際 陽子

山田 剛三 ・・・・・・・・・・・・・ 岡田 真澄

ナレーション ・・・・・・・・・・・・ 森山 周一郎

【ゲスト出演者】

支配人   ・・・・・・・・・・・・・・ 綾田 俊樹(1話)

霧島 澄子 ・・・・・・・・・・・・・・ 菅井 きん (1〜3話)

津村 俊介 ・・・・・・・・・・・・・・ 山崎 一 (1〜3話)

大森 美和子 ・・・・・・・・・・・・ 伊藤 裕子 (1〜3話)

青木 正吾  ・・・・・・・・・・・・・ 河原 さぶ (2〜3話)

ミラクル三井 ・・・・・・・・・・・・ 篠井 英介 (4〜5話)

伊藤 公安  ・・・・・・・・・・・・ 中丸 新将 (4〜5話)

有馬 辰夫  ・・・・・・・・・・・・ 二瓶 鮫一 (5話)

松井 一彦  ・・・・・・・・・・・・ 深水 三省 (6話)

黒坂 美幸  ・・・・・・・・・・・ 佐伯 日菜子 (6〜7話)

渡辺 哲   ・・・・・・・・・・・・ 渡辺 哲 (7話)

工藤兄弟 ・・・・・・・・・・・・ 工藤順一郎・光一郎 (7話)

茉奈・佳奈 ・・・・・・・・・・・・  三倉 茉奈・佳奈 (7話)

大木 凡人 ・・・・・・・・・・・・・ 大木 凡人 (8話) 

桂木 弘章 ・・・・・・・・・・・・・ 橋本 さとし (8話)

黒津 次男 ・・・・・・・・・・・・ 鴻上 尚史 (9〜10話)

黒津 三男 ・・・・・・・・・・・・・ 正名 僕蔵 (9〜10話)

黒津 元男 ・・・・・・・・・・・・・ 柴崎 蛾王 (10話)

鬼束ちひろ ・・・・・・・・・・・・・ 鬼束ちひろ (10話ED)

【感想】

ご存知、仲間由紀恵さんの連続ドラマ初主演作。

平均視聴率は7,9パーセントと、深夜枠としては健闘。
といった感じでしたが、DVD、ビデオが発売されると
これが爆発的に売れ、在庫は常に品薄状態が続き
パート2の製作、映画化の決定という運びとなりました。

『ケイゾク』や『IWGP』の堤幸彦監督の作品らしく
何度も見直さないと気づかないような小ネタが満載で
マニアックなファンの熱狂的な支持を集めたのが
好セールスを記録した主な原因と思われますが

主演の二人のかつてない魅力を引き出したことが
このドラマ最大の功績と言ってよいでしょう。

この作品までは、美人ゆえに『意地の悪い敵役』や
『大人しい薄幸の美少女役』が多かった仲間さんが
コメディエンヌとしての才能をいかんなく発揮しており
『ケイゾク』でも中谷美紀さんにコミカルな演技で
新境地を開拓させた堤監督の才覚が光っています。

阿部寛さんは、中央大学在学中に雑誌モデルとして
デビューすると『高学歴、高身長、高収入』という
『三高』の象徴的存在として一躍人気者になりました。

人気の余勢を買って、映画『はいからさんが通る』では
当時人気絶頂のアイドル南野陽子の相手役という大役で
華々しく『俳優デビュー』を飾りましたが、デビュー当初は
『モデル上がりの大根役者』という評価が多数を占め
やがてブームが去ると、厳しい環境におかれました。

しかし、阿部さんは『つかこうへい劇団』で演技を
基礎から勉強し直し、演技派の俳優として復活。

舞台をこなしながら、数々のテレビドラマに出演し
クセのある演技をする助演俳優としてキャリアを積み
この『TRICK』という作品では久々の主演俳優として
巨根の物理学者・上田次郎に命を吹き込みました。

190センチ近い長身で、モデル出身の阿部さんと
沖縄出身で、エキゾチックな美女の仲間さんという
よく考えれば、絶世の美男美女コンビでありながら

当時、もうひとつパッとしないポジションにいた二人が
あくまで作品のキャラクターを作り上げる事に集中し
『巨根』や『貧乳』のような、少々難のあるセリフを使って
三枚目を躊躇なく演じてくれた事が、上田と奈緒子の
キャラクター作りの上で良い方向に働いた事は確か。

もし主演俳優が、この二人でなかったら上田と奈緒子は
もう少し気取りくさった、面白味のないキャラクターに
なっていたかもしれません。

脇を固める矢部刑事役の生瀬勝久さんや石原達也役の
前原一輝さんも堤作品の常連で、主役を食う勢いの
強烈なキャラクターが『TRICK』の世界を広げています。

このドラマの主人公・山田奈緒子の基本設定は
「リング」の山村貞子がベースだと思われますが
その他にも、奈緒子のキャラクターの設定に
多大な影響を及ぼしたと思われる人物が二人います。

一人はジェイムス・ランディ、そしてもう一人は
作品中でも紹介されたハリー・フーディーニ

彼らは、二人とも実際にエセ超能力者に戦いを挑んだ
奇術師であり、特にハリー・フーディーニにおいては
20世紀初頭に、全世界で『脱出王』の異名をとった
ボードヴィル・マジック界のスーパースターでした。

フーディーニは、米語辞典では「Houdini」という単語が
『脱出する、切り抜ける』と言う意味で紹介されていたり
没後、数々の伝記映画や小説が発表されるほどの
伝説的人物であり、現在『サイ・コップ』と呼ばれている
『サイキックハンター』の元祖でもあります。

そして、このハリー・フーディーニの生涯を知る事で
『TRICK』をより深く楽しむ事が出来ると思いますので
ここに彼の生涯を簡単に、ご紹介させていただきます。

★ハリー・フーディーニ (1874〜1926)

ハンガリー移民の子供として幼少の頃アメリカに渡った
ハリー・フーディーニ(本名エーリッヒ・ワイズ)は貧しい
少年時代を過ごした後17歳の時、奇術師として独立。

フーディーニは、奇術師としての長い下積み生活の後
薄暗い劇場の中で行われるのが通例だった奇術を
街中で行うなどの画期的な変革をもたらした。

中でも、鍵抜け(エスケープ)を得意としたフーディーニは
警察で実際使用される手錠をつけての牢獄から脱出とか
衆目の見守る中、箱詰め状態で川の中から脱出とか
ガラス張りの水中牢からの脱出といった画期的な演目を
披露し、怪しげな見世物というイメージだった『奇術』を
『ボードヴィルショー』の地位にまで引き上げた。

世間から『脱出王』『不死身の男』という異名を得て
奇術師として地位を確立したフーディーニだったが
彼が最も愛した人物、母:セシリアを失ってからは

霊界にいる母との交信を求めて、19世紀末からの
スピリチュアリズム(心霊主義)の台頭によって
当時、霊能力者によって各地で盛んに行われていた
死者を呼び出す『降霊会』にも顔を出すようになる。

しかし、彼が会った霊媒師はことごとくインチキだった。

そして霊能力者という存在に深く失望したフーディーニは
人の弱みに付け込んで暴利を貪るペテン師たちを憎み
彼らに挑戦状を叩きつけて、トリックを暴き立て始める。

友人であり、晩年は神秘主義に傾倒していた作家
コナン・ドイルの主催した降霊会でも、ドイルの招いた
霊媒師のウソを見抜いた彼は以降ドイルと絶縁。

その後も各地の公演先で霊媒師のペテンを暴き続けた
彼は、やがて『サイキックハンター』の異名を受ける。

1922年『サイエンティフィック・アメリカン』誌で行われた
厳正な審査のうえ、本物の心霊現象を見せた者に
2500ドルを支払う。という企画で、フーディーニは
それまでの功績を買われて、心理学者、科学技術者
心霊研究家と並んで審査員に名を連ねる事になったが
彼に対する他の審査員の態度は冷淡な物だった。

しかし、欧州の科学者たちが『本物』と太鼓判を押した
「X線の目を持つ男」と呼ばれるスペイン人の霊能力者
アルガマジラの『金属透視術』のトリックを、審査員の中で
フーディーニだけが、鮮やかに解き明かして見せたのは
『TRICK』の冒頭のナレーションでも紹介されたとおり。

さらに大学教授の若妻で『本物』の呼び声の高かった
ミセス・マージェリーとの対決においても、奇術師の目で
彼らのトリックを看破し、贈呈される直前だった賞金を
彼らの手から取り戻す事に成功する。【参考HP

こうして、霊媒師と戦い続けたフーディーニは1926年の
ハロウィンの夜、皮肉にも彼を本物の『不死身の男』だと
信じ込んでいた熱狂的なファンの青年に、公演先で
腹を殴られたのが原因で腹膜炎を起こして死亡する。

最愛の人を亡くした遺族の弱みに付け込む霊媒師の
ペテンを憎み、生涯を通じて彼らのトリックを暴き続けた
フーディーニだったが、彼が『サイキックハンター』として
霊媒師のペテンを暴き続けたのは、実は霊界の母親と
交信できる『本物』を探していたからだとも言われている。

なお、彼の生涯を描いた伝記映画『魔術師の恋』では
フーディーニは水中脱出に失敗して死ぬ事になっている。

と、いう訳でフーディーニの生涯をご紹介した訳ですが
フーディーニの生涯が山田奈緒子と山田剛三の設定に
多大な影響を及ぼしているのがよく分かったと思います。

奈緒子の父・剛三が水中脱出トリックの練習の最中に
謎の死を遂げた事や、奈緒子が極度のファザコンなのも
サイキックハンターなのも、フーディーニとかぶります。

そして奈緒子が父の死の真相を求めて真の超能力者を
探している事も明らかに彼の半生が下敷きになっており
まさにハリー・フーディーニがいなければ山田奈緒子は
誕生しなかった。といっても過言ではありません。

また、ランディもフーディーニも科学者や知識人からは
『奇術師風情に何が分かる』という態度を取られながら
結局、ニセ超能力者の行うペテンを暴き出せたのは
彼らと同業者であるランディやフーディーニだけだった
という点で『TRICK』の基本的な流れと酷似しています。

キャラクターを肉付けする段階で、様々なアイデアが
盛り込まれて、山田奈緒子という稀有なキャラクターが
命を吹き込まれるわけですが、こうした実在の人物の
エピソードを一部下敷きにしている事が、山田奈緒子の
キャラクターにリアリティを与えていたのかもしれません。

奈緒子は実は超能力を持っているという基本設定があり
その設定をベースにして、最終話は展開して行きますが
結局、堤監督はあからさまに超能力を感じさせるシーンを
撮影しておきながらカットするという判断を下しています。

個人的に、この堤監督の判断が『TRICK』という作品を
一本筋の通った作品にしたのではないかと思います。

モドル

inserted by FC2 system