LOVE SONG

『LOVE SONG』 2001/4/28 劇場公開 1時間40分

【製作】 LOVE SONG Partners

【配給】 ソニー・ピクチャーズエンターテインメント

【製作協力】        オ ズ

【監督/脚本】       佐藤 信介

【プロデューサー】    一瀬 隆重

【音楽プロデューサー】 須藤 晃

【撮影監督】        河津 太郎

【主題歌】         尾崎 豊

 「OH MY LITTLE GIRL」 「FORGET-ME-NOT」

【出演】

松 岡 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 伊藤 英明

彰 子 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 仲間 由紀恵

哲 矢 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 一條 俊

千 枝 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 原 沙千絵

石 川 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 津田 寛治

哲矢の同級生・高橋 ・・・・・・・ 坂本 真

彰子の同級生・和美 ・・・・・・・ 三輪 明日美

美代子 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 石堂 夏央

香 織 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 奥貫 薫

【ストーリー】

1985年、北海道。
街の小さなレコード店に、お薦めとして飾られていた
尾崎豊のレコード『十七歳の地図』が気に入った彰子は
そのレコードを買おうと、店員の松岡に話しかける。

ところがレコードは松岡の私物なので売れないと言う。
しかし『もう薦められちゃったんですけど。』と粘る彰子に
松岡が根負けし、私物のレコードを貸してくれた事から
二人は親しくなって、いろいろと話しをするようになる。

松岡は、彰子に自分の夢や好きな音楽の事を語った。
彼の夢は自分のレコードショップを持つ事だという。

『自分の好きな音楽だけを集めたレコード屋を作りたい。
 クラッシックから全部揃ってるって意味で店の名前は
 シーラカンスレコードって名前にするんだ。』

夢を語る松岡に、何も目的が見つけられないでいた
彰子は強い憧れと淡い想いを寄せるようになっていく。

しかし、そんな彰子の想いを知らぬまま、松岡は
ある日突然レコード店を辞め、彰子の前から姿を消す。

彰子の手元に『十七歳の地図』を残したまま。

それから2年後の1987年、夏の北海道。
2年たっても、自分が何をしたいのか分からない彰子は
高校最後の夏休みも、ただ無為に過ごそうとしていた。

母子家庭の彰子は自分が進学できない事を悟っていた。
高校を卒業したら、彰子は就職しなければならない。
彼女に子供でいられる時間は余り残されていなかった。

しかし彰子は、自分が何をしたいのか
何が出来るのかが分からないで焦っていた。

そんな時、レコード店を訪れた彰子はコルクボードに
シーラカンスレコードのDMが貼ってあるのを見つける。

そこには、仲間と共に笑う松岡の姿があった。

DMで『シーラカンス・レコード』の住所を知った彰子は
以前から自分に付きまとっていた同級生の哲矢が
ひょんな事から、まとまった金を手にした事を思い出し
衝動的に、東京に松岡を探しに行く事を決める。

こうして、哲矢というオマケを伴なった
彰子の最後の夏休みの旅が始まった。

2年前に語っていた夢をかなえた松岡なら
今の自分にも何かヒントをくれるかもしれない。

そんな思い込みから衝動的に東京へ向かった彰子の
目に入ったのは廃墟となったシーラカンスレコードだった。

彰子と哲矢が残っていた郵便物から関係者を訪ねると
かつて松岡と共に『夢』を共有したはずの仲間たちの
口から出たのは責任の擦り合いと『金』の話ばかり。

松岡の夢『シーラカンスレコード』は、出来て間もなく
『裏切り』『仲間割れ』『金の持ち逃げ』『借金』という
さまざまな問題を抱え、わずか2ヵ月で倒産していた。

彰子と哲也の前にたたずむ『シーラカンスレコード』は
厚い現実の壁の前に破れた松岡の夢の残骸であった。

彰子が哲矢と一緒に松岡の行方を追っている頃。
彼は都会の片隅で警備員の仕事をして暮らしていた。

何かから逃げるように日々の仕事に没頭する松岡は
いつか彰子に自慢していたレコードも聴かなくなっていた。

夢破れ、かつての希望に満ちた面影を失った松岡は
ひょんな事からディスプレイデザイナーの千枝と出会う。

強い意志と、確固たる夢を持つ千枝と話すうちに
松岡は少しずつ自分がなくしたものに気づいて行く。

松岡の足跡を追って、かつての関係者のもとを訪ね歩く
彰子と哲矢は、夢を追い求めて生きる事の難しさや
大人になる事の意味する厳しい現実を思い知らされる。

もしかしたら、今の冴えない世界から
自分を連れ出してくれるかもしれない。

そんな期待を抱いて訪ねた松岡は夢破れて姿を消した。

もう、自分を夢の世界に連れていってくれる人はいない。

しかし、彰子は自分の目で彼の姿を確かめたかった。

そんな時、彰子は尾崎のコンサートが開かれる事を知る。

−どうしても、あの人に逢いたい。−

彰子は、無理と知りながらコンサート会場に向かい
会場ヘ進む雑踏の中に松岡の姿を捜し求める。

しかし、ちょうどその頃、松岡は廃墟となった
『シーラカンス・レコード』へ向かっていた。
自分が無くした『何か』を取り戻すかのように。

会場で逢う事を諦めて帰ろうとする彰子に
哲矢がコンサートのチケットを1枚わたす。
『これ、お前の家出だから。』と言いながら。

そして、1人で尾崎豊のコンサートを見た彰子は
自分の中で何かが終わろうとしている事を知る。

そして、何か新しいものが芽生えつつある事も。

コンサートを見終わってホテルに戻った彰子と哲矢は
ようやく分かった松岡の住まいに翌日、向かう事にする。

メモの住所を訪ねると松岡は確かにそこに住んでいた。

しかし、彰子はドアをノックする事なく
ドアの前に『十七歳の地図』を置いて帰る。

逢って現実と直面する事が怖くなったのか?

ところが彰子は帰る途中で偶然、松岡とすれ違う。

猛スピードで、彰子の脇を通り過ぎて行く松岡。

一陣の風が彰子の長い髪を揺らす。

それは何かを必死で追い求めるあの頃の松岡だった。

しかし、彰子は松岡に声をかけなかった。

もう、彰子には松岡に逢う必要がなかったから。

この瞬間、彰子の中でひとつの時代が終った。

帰りの電車の中で、哲矢と楽しげに話す彰子。
2人の会話には、もう松岡の話題はなかった。

彰子は、松岡の夢の中に居場所を探そうとしていた
少女時代に別れを告げ、自分の道を歩き出した。

【感想】

佐藤監督は、この映画がメジャーデビュー作という事で
それほど大規模なロードショー公開だったワケでもなく
内容もどちらかというと、地味な青春映画という事で
公開当時は劇場に足を運ぶまでもないと思ったんですが

いやぁ、実にイイ映画ですね。

ケレンの王様、堤監督なんかと比べると、映像的には
まったくオーソドックスで、見るべきものはないんですが
ストーリーに関しては、そのオーソドックスさが良く働いて
非常に丁寧かつ、リアルな青春像が描かれています。

どこに向かって行くのか分からないエネルギーだけは
充満していているのに何をすれば良いのか分からない。

誰かの夢に自分を託したり、寄りかかったりしながら
自分の事は自分で決めなければならないと気づく事。

夢に破れた者は夢を見なくなる事で自分を慰めようとし
ほとんどの人はそんな諦めの中で日々を過ごしている。

でも何かに向かってひたむきに生きる事を止めなければ
どんなささいな事でも、輝きは失われないかもしれない。

とまぁ、こんな感じの事が淡々と描かれてるんですが
これが、なんともリアルな描写になっておりまして
身に覚えのある大人には胸にグッと迫るものがあります。

しかも宣伝文句では『ラブストーリー』と言いながら
実際は、それより一歩踏み込んだテーマなのがイイです。
なんと言っても『ラブストーリー』と銘打ちながら
誰一人としてハッキリ告白しないところがすごい(笑)

また、仲間さんの演技は特筆すべき素晴らしさでした。

正直言って、仲間さんに『演技が上手い』という印象は
これまで一度として持った事はなかったんですが(笑)

この作品では、細かな仕草から話し方までものの見事に
女子高生してまして、ぶっちゃけ、妙にエロっぽかった
『ラブ&ポップ』の時よりも爽やかな女子高生ぶりです。

飾り気のない服装とか化粧っ気のないメイクとか
外見的な要素によるものもあるとは思うんですが

松岡と歩いてる時の中心のブレたカッコ悪い歩き方とか。

哲矢と話してる時の突き放すようなぶっきらぼうさとか。

時々、どこか所在なさげな表情をするところとかが

ヒジョーに高校生らしい未成熟な感じが現れています。

最近はトーク番組なんかだと、たまに近寄り難いくらいの
『女優オーラ』を発していたりする仲間由紀恵さんだけに
これが演技である事は明らかなんで、すごく感心しました。

仲間由紀恵という女優には実年齢より上の役は出来ても
下の役は難しいだろう。なんて失礼な事を考えてましたが
この映画を見て、ちょっと考えが変わりましたね。

仲間さん以外で良かったのは一條俊君と坂本真君。
いろんな意味で高校生男子らしい良い味を出してます。

娯楽映画としては、正直言って地味な作品ですが
今のところ、これまで仲間さんが出演した映画の中で
文句なしの最高傑作じゃないかと思っています。

この作品を尾崎豊や彼を取り巻く周辺事情が嫌いだから
という理由で見ていない人は勿体無いので見てください。

この映画は尾崎豊ファンのおっさん達が車座になって
号泣しながら『尾崎はなぁ・・尾崎はなぁ・・』と尾崎の
素晴らしさを語り合うような痛い映画ではありません。

尾崎豊の曲は、この映画の世界で重要な要素ですが
映画自体は決して尾崎豊のファンのための作品ではなく
尾崎と共に、この時代を生きた大人達や、彰子のように
今、まさに大人になりかけている人のための映画です。

ラストシーンのコンサート会場での彰子の涙は

終わろうとする恋に

終わろうとする最後の夏休みに

終わろうとする少女時代に

別れを告げる彰子の惜別の涙のように見えました。

(2002/2/24)

モドル

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