平成13年1月2日 ラブ&ポップ

1998年1月10日 劇場公開作品  (カラー 110分) 

製作・配給       ラブ&ポップ製作機構

製作統括        大月 俊倫

原作           村上 龍 「ラブ&ポップ(幻冬舎)」

脚色           薩川 昭夫

監督           庵野 秀明(新人)

友情准監督       摩砂雪

友情特殊技術     樋口 真嗣

主題歌         三輪 明日美

  「あの素晴らしい愛をもう一度」

出演

吉井 裕美  ------ 三輪 明日美.(新人)

野田 知佐  ------   希良梨

横井 奈緒  ------  工藤 浩乃

高森 千恵子 ------ 仲間 由紀恵

裕美の母   ------  岡田 奈々

裕美の父   ------  森本 レオ

ウエハラ   ------  手塚 とおる

カケガワ   ------  平田 満

ヨシムラ   ------  吹越 満

ヤザキ    ------  モロ 師岡

キャプテン×× ---  浅野 忠信

コバヤシ  -------  渡辺 いっけい

(あらすじ)

ある夏の夜、吉井裕美は奇妙な夢を見た。

家庭ではごく普通の高校2年生を演じている裕美(三輪)だが
テレクラや伝言ダイヤルで知り合った男たちの相手をしては
小遣いを稼ぎ、その金で友達と遊び回る毎日を過ごしている。

お気楽に安穏とした生活を送っているように見える彼女達。
しかし内心は『日々変わっていく事・終わっていく事』に対する
漠然とした不安から焦燥感にさいなまれる毎日を送っている。

少し大人の千恵子(仲間)は割り切って今を楽しもうとしている。
将来のために、何かしておきたいと考えた知佐(希良梨)は
真剣にダンスを習い始め、ダンサーを目指す事にする。

何かを始めるために何かを終わらせなければならない。
知佐はプロのダンサーになるため高校を自主退学し
無理して背伸びをしていた千恵子は高校生である事が
彼氏にバレてフラれる。それでも時間は勝手に流れる。

思いきり遊べる最後の夏休みに4人は海に行く事を計画。
水着を買いに出かけたデパートの宝石売り場で偶然みつけた
綺麗な指輪が、久しぶりに裕美の心をときめかせる。

しかし、指輪の値段は128,000円で裕美には買えない。
そこで裕美の様子を見た千恵子と知佐が偶然デパートにいた
カケガワ(平田)を誘ってカラオケヘ行き12万をせしめる。

千恵子、知佐、奈緒の三人は、全額を裕美に渡そうとするが
裕美は「みんなで集めたお金はみんなで分けたい。」と主張。
この時は自分でもなぜそう思ったのか説明出来ない裕美だが
「みんなと対等でいたかったのだ。」という事に後で気づく。

どうしても、指輪の事があきらめられない裕美だったが
指輪を買う金を稼ぐ方法など援助交際くらいしかなかった。

明日、海に行くまでに指輪を手に入れたかった裕美は
奈緒がホモのオヤジ(渡辺)から預かっていた携帯を使って
伝言ダイヤルにかかって来た男たちのメッセージを頼りに
デパートが閉店する9時までに残りの金を集めようとする。

(感想)

仲間由紀恵プレイバック!!という事でビデオを借りました。
『エヴァンゲリオン』の庵野監督と村上龍の原作ということで
公開当時も興味はあったんですが、全編デジカメ撮影と聞き
「別に映画館で見なくてもいいや。」と見に行くのを中止(笑)

ところが実際に見てみると、このデジカメの映像がかなり良く。
見た事もないような斬新なアングルからの映像を映し出し
レベルの低い画質が逆に生々しい感じを醸し出しています。

翌年『ガメラ3−邪神覚醒』で特技監督を務める樋口真嗣氏が
友情特殊技術で参加しており、仲間由紀恵が『ガメラ3』に
チョイ役で登場したのは本作がらみの友情出演だった模様。

『女子高生の援助交際』がテーマと聞いていたのですが
主演の女の子たちのファッションがあまりにフツーでビックリ。
劇場公開から、まだ2年ちょっとしか経っていないというのに
ガングロも茶髪もヤマンバもおらず、懐かしくさえある姿に
時の経つのは本当に早いものだと痛感します。

この作品に登場する女の子たちが、現実の女子高生像を
どこまでリアルに描いているかは微妙なところだと思います。
すでに、公開から2年が経過して、現実の女子高生の姿は
さらに変貌しているので、単純比較する事は難しいでしょう。

しかし、思春期に感じる、この種の焦燥感や喪失感は
全く同じ形でなくても、誰もが感じるものだと思われるので
当たらずとも遠からずという感じではないでしょうか?

印象に残るのは、主役の女の子達よりも援助を持ちかける
奇妙な男たちのキャラクターに物凄くリアリティがある事。

援助をしながら、自分の娘だけは絶対にそんな事はしないと
固く信じ込んでいる男。援助の女の子に若く見られようとして
カラオケで無理してミスチルを歌うが見透かされている男。
金を払って自分が作った手料理を女子高生に食べさせて
ただ、それを眺める男。ぬいぐるみを手放せない男。など。

金という圧倒的な力を借りないと虚勢を張る事も、ささやかな
夢を実現する事すら出来ない、抑圧されて歪んだ男たちが
実に見事に描かれていると思います。

特に『レンタルビデオを一緒に借りに行ってくれたら5万円男』
ウエハラ(手塚)のヲタクっぽい気持ちわる〜いキャラクターは
出色の出来で、さすがはアニメ界の監督ならではという感じ。

4人の女の子達のキャラクターの違いも上手く描かれており
カケガワ(平田)とカラオケに行くシーンで、カケガワの歌に
拍手をしたり、積極的にデュエットを勤めたりとプロ意識すら
感じさせる千恵子と知佐と、カケガワを全く無視している奈緒と
裕美の対比は、すでに大人になりかかっている千恵子と知佐と
まだ子供を引きずっている奈緒と裕美のキャラクターの違いを
巧みに表現していて印象に残りました。

ちなみに、このカラオケのシーンで無理して若者向きの歌を
歌うカケガワに千恵子が自分の好きな歌を歌うように勧めると
カケガワがフォークを歌い出し、それを聞いた奈緒と裕美が
「こんな歌が流行ってたなんて信じられないね」と言うシーンが
あるんですが、主題歌に『あの素晴らしい愛をもう一度』という
古い曲を選択したのはこのセリフを受けた物だと思います。
意図は良く分かりませんけど(´τ`)σ

その他で印象に残ったのは、裕美がレンタルビデオ店で
ウエハラの自慰を手伝わされるシーンでの裕美の反応。

金でウエハラのような男に時間を切り売りする事に対しては
何の罪悪感も持たない裕美が、ネイルサロンで綺麗にした指を
ウエハラの精液で汚された途端に、突然嫌悪感をあらわにして
逃げ出すシーンでは、裕美のアンバランスな価値観が端的に
描かれていて、上手い描写だなと思いました。

肝心の仲間由紀恵さんに関しては、演技云々という以前に
表情とか仕草が他の三人と比べて明らかに大人びており
女子高生の中にOLさんが1人混じっているような印象です。

実際、この作品が収録された当時、仲間さんは17歳で
主役を演じた4人の中で最年長だったのは確かなんですが
むしろ彼女から感じる『大人っぽさ』は、実年齢の差よりも
彼女と他の子の『プロとしてのキャリアの差』のような気が。

三輪明日美さんのラブホテルのお風呂のシーンよりも
仲間さんの水着姿の方がエロかったのが印象に残りました。

それからDVD版を改めて見直してみて気がついたのは
仲間さん自身が、ばっちりメイクをした時は驚くほど大人っぽく
すっぴんの時は、年齢なりのあどけなさを持っている人で
メイクひとつで、そのイメージが激しく変わる人なので

仲間由紀恵さん演じる、高森千恵子という女の子も
学校にいる時は大人しくて真面目な生徒に見えるのに
メイクをして私服に着替えて、渋谷の街を歩いている姿は
プロのお姉さんのような大人びた雰囲気に変わるので
そのへんの変化を、もう少し効果的に見せたら、もっと
彼女たちの捉え所のなさが感じられて良かったのに
という感想を持ちました。

とりあえず『女子高生の援助交際』がテーマの作品という事で
キワドイ内容を想像すると、とんだ肩すかしをくらいます。
庵野監督らしい『エヴァ風味』満載の自分探しの映画です。

同じような悩みを抱える人には僅かな違いが不協和音を呼び
通り過ぎてしまった人からは、忌み嫌われがちなテーマですが
かなり丁寧に、真っ当に作られた青春映画だと思います。

4人でドブ川を歩くラストシーンの意味は良く分かりませんが。

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