2003年6月  『顔』の感想
『顔』

2003年4月15日〜6月24日放映(全11話)
21:00〜21:54 *第1話のみ15分延長

最高視聴率 第1話 15.6パーセント (平均12.3パーセント)

原作 横山 秀夫(徳間書店)

製作 フジテレビ、共同テレビ

企画 清水 賢治

プロデューサー 高橋 萬彦、後藤 博幸

【演出】 

土方 政人 (1話、2話、7話、11話)

松田 秀知 (8話、10話)

都築 淳一 (3話、4話、5話、9話)

【脚本】

高橋 留美(1話、2話、3話、4話、7話、8話、10話、11話)

佐伯 俊道 (5話、6話)

平見 瞠 (5話、6話、9話)

【音楽】 佐藤 直紀

【主題歌】 「君があなたが」 Nao (rythm zone)

【出演】

平野 瑞穂(23) ・・・・・・・・・・・・・・ 仲間 由紀恵

西島 耕輔(27) ・・・・・・・・・・・・・ オダギリ ジョー

神崎 加奈子(23) ・・・・・・・・・・・ 京野 ことみ

樋口 京子(41) ・・・・・・・・・・・・・ 余 貴美子

内村 秀夫(25) ・・・・・・・・・・・・・ 海東 健

鶴田 猛(45) ・・・・・・・・・・・・・・・ 益岡 徹

亀田 賢(43) ・・・・・・・・・・・・・・・ 矢島 健一

本間 英一(47) ・・・・・・・・・・・・・・ 升 毅

今村 真一(39) ・・・・・・・・・・・・・ 近藤 芳正

七尾 友子(32) ・・・・・・・・・・・・・ 田中 律子

朝倉 ちあき(21) ・・・・・・・・・・・・・ 立川 絵理

佐藤 勇三(52) ・・・・・・・・・・・・・ 河原 さぶ

尾崎 省吾(25) ・・・・・・・・・・・・・ 品川 佑

小松 浩二(28) ・・・・・・・・・・・・・ 田中 哲司

相田 咲子(28) ・・・・・・・・・・・・・ 黒坂 真美

阿部(刑事) ・・・・・・・・・・・・ 菅原 大吉

横山(刑事) ・・・・・・・・・・・・ 山岸 史卓

井上(刑事) ・・・・・・・・・・・・ 北山 雅康

木崎(刑事) ・・・・・・・・・・・ 御子柴 哲郎

臼井久夫(記者)・・・・・・・・・ 渡辺 憲吉

海老沢監察官(39)・・・・・・・ 山崎 一 (2話、8話)

【ゲスト】

中嶋 しおり(20) ・・・・・・・・・ 水橋 貴己 (1話)

石田 満男(62) ・・・・・・・・・・・・ 大林 丈史 (1話)

中嶋 健二   ・・・・・・・・・・・・ 甲本 雅裕 (1話)

石井老人(66) ・・・・・・・・・・・ 左右田 一平 (2話)

林 純子(33) ・・・・・・・・・・・・ 三木 さつき (2話)

深井巡査(26) ・・・・・・・・・・・ 椎場 辰朗 (2話)

三浦 真奈美(21) ・・・・・・・・・ 佐藤 仁美 (3話)

砂田 明(25) ・・・・・・・・・・・・ 青木 堅治 (3話)

柳 邦彦(52) ・・・・・・・・・・・・・ 六平 直政 (4話)

飯田 あゆみ(26) ・・・・・・・・ 赤坂 七恵 (4話)

山口 明(43) ・・・・・・・・・・・・・ みのすけ(4話)

梶間刑事(48) ・・・・・・・・・・ 石橋 蓮司 (5話)

栗山 信一(18) ・・・・・・・・・・ 反田 孝幸 (5話)

長谷川 マキ(25)・・・・・・・・ 松本 莉緒 (6話)

望月 渉(39) ・・・・・・・・・・・ 宮本 大誠 (6話)

山根 寛(37) ・・・・・・・・・・・・ 平井 賢治 (6話)

山城 (35) ・・・・・・・・・・・・ 宇梶 剛士 (7話・8話)

三浦 茜 ・・・・・・・・・・・・・ 木村 多江 (8話) 

篠原 房子(45)・・・・・・・・ 大塚 良重 (7話・8話)

芥川 智幸(28) ・・・・・・・・・ 内浦 純一 (7話)

鈴木 真寿美(24) ・・・・・・・ 石橋 けい(7話・8話)

シスター ・・・・・・・・・・・・・・ 銀粉蝶 (8話)

箕田 修(49) ・・・・・・・・・・ 佐野 史郎 (7・8話)

園田 順治(35) ・・・・・・・・・・ 浜田道彦 (9話)

白川 恵津子 ・・・・・・・・・・ 長内 美那子 (9話)

白川 弦(26) ・・・・・・・・・・・・・・ 鳥羽 潤 (9話)

竹内 さえ(28) ・・・・・・・・・・・・・ 真木ようこ (9話)

中村アヤナ(8) ・・・・・・・・・ 望月 瑛蘭 (10・11話)

菅田 ミカ(23) ・・・・・・・・・・ 小橋 めぐみ (10話)

林 直哉(28) ・・・・・・・・・・・・ 横塚 進之助 (10話)

片岡 菊馬(47) ・・・・・・・・ 梅垣 義明 (10・11話)

加西 徹(46)  ・・・・・・・・・・・・ 松重 豊 (11話)

【あらすじ】

K県警、広報課に務める婦人警官、平野瑞穂は以前
鑑識課で似顔絵を描いていたが、とある事件に関わる
不祥事の責任を取らされて広報課に配転されていた。

広報課職員の冷たい仕打ちにも耐えながら婦人警官という
職務に誇りを持ち、警察組織という男性中心の社会の中で
どんな職場でも警察官としての職務を全うしようとする瑞穂。

そんな瑞穂の前に、他署で問題を起こして捜査一課に
転勤してきたばかりの若手刑事・西島耕輔が現れる。

西島も、警察官らしく”警察に女は要らない”という主義の
持ち主だったが、瑞穂が描いた似顔絵により、放火事件の
意外な真相が判明した事によって、瑞穂に興味を覚える。

そんな中、瑞穂の『西島さんの顔が見えない』という言葉に
西島は己の心の奥に潜む”闇”を垣間見るのだった・・・

【感想】

原作は代表作『半落ち』が直木賞候補にノミネートされて
話題となった横山秀夫氏の『顔』で、短編集『陰の季節』に
収録された『黒い線』に登場する”似顔絵婦警”平野瑞穂を
主人公にした婦警の視点から見た警察内部を描いた作品。

原作の平野瑞穂は、似顔絵が上手いという事と
非常に正義感が強く、勘が鋭いという点を除いては

婦警同士でカラオケに行って盛り上がったり、出入り記者に
恋心を抱いてみたり、七尾に怒られてショゲてみたりする
ごく普通の、若い女性警察官という設定になっています。

ドラマと違い家庭環境もごく普通で、実家は農家を営む
素朴な家庭という設定になっており、両親も健在です。

原作の瑞穂もドラマ同様、事件の謎を解こうと奮闘しますが
直接捜査に当たる捜査員に示唆を与えるだけだったり
謎を解いた時にはすでに犯人に捜査の手が伸びていたり
真実を突き止めても事件解決の役に立たなかったりで
決して捜査員として派手な活躍をするワケではありません。

では、仲間由紀恵さんが演じたテレビドラマ版の
平野瑞穂はどんな人物だったか?と考えますと。

原作モノとはいいながら、ドラマの4,5,9,10,11話は
完全なドラマ・オリジナルのエピソードとなっておりまして
原作を元にしたエピソードでも、原作と犯人が違ったり
犯行の動機や細かな展開に、ドラマ用の大幅な変更が
加えられていた事も珍しくありません。

原作の瑞穂は、最初のエピソードでは広報室勤務ですが
あちこちの部署を点々として最終エピソード『心の銃口』では
捜査一課の臨時捜査員として事件に関わっていきます。

しかしドラマの瑞穂は最初から最後まで広報課でありながら
捜査一課の刑事をさしおいて事件解決の中心人物として
大車輪の活躍をし、謎解きの場面になると人を集めて

金○一少年か名探偵コ○ンか

というほどのイキオイで、事件の解説を始めたりします。

おかげで、ドラマ『顔』は”リアルな警察ミステリー”として
高い評価を受けている横山氏の原作とはかけ離れた

名探偵・似顔絵刑事(デカ)登場!!

という、安っぽい2時間ドラマのような構造になっています。

さらに、男性上司のイヤミだったりセクハラ発言だったりに
イチイチ傷ついたり、立派過ぎる同僚に嫉妬を覚えたり
箕田刑事に『警察オタク』よばわりされてムッとしてみたり
飲み会の翌日に、二日酔いで自己嫌悪に陥ってみたり

些細な事で、喜んだり怒ったり泣いたり笑ったりしている
原作の瑞穂と較べて、ドラマの瑞穂は基本的に”怒る”と
”泣く”以外の感情を表現するシーンがほとんど無かった。
と、言っても良いのではないかと思います。

これは、おそらく瑞穂の”本当の笑顔”を表現するシーンを
『出生の秘密が明らかになる8話のラストに持って来たい。』
という演出プランがあったためではないかと思われますが
おかげでドラマの瑞穂は、全般に感情の起伏が見えにくく
掴み所の無い優等生キャラになってしまった感じがします。

昭和初期の古典的な少女小説や少女漫画で使い古された
『亡母恋し』という手垢のついた物語を盛り上げるために
原作最大の魅力である平野瑞穂の人間性に関する描写が
削られたのだとすれば、残念としか言いようがありません。

また、警察側のキャラクターで原作とドラマのどちらにも
登場しているのは、瑞穂、七尾、海老沢監察官くらいで
西島耕輔も樋口も神崎加奈子もドラマだけの登場人物です。

全般的に、ドラマオリジナルのキャラクターは瑞穂と較べて
原作の拘束を受けない分だけ活き活きと描かれていますが
このドラマ・オリジナル登場人物の中で、主人公:平野瑞穂と
同じくらい難しい演技を要求されたのが神崎加奈子です。

というのも、加奈子はドラマのオリジナルキャラクターで
ありながら、京野ことみさんがキャスティングされている
だけあって、瑞穂、西島に次ぐ登場機会が与えられており

そのため、加奈子にはドラマオリジナルの性格だけでなく
原作に登場する、いろんな登場人物(端役)の人格が
ビリー・ミリガンなみに注入されていたのです。

おかげで加奈子は、同期で心を許せる親友だと思ってたら
第6話では”瑞穂が自分を売った”と真っ先に疑ってみたり
しがない警務課の婦警だと思ったら”銃信奉者”だったり
西島に気があるのかと思ったら、そうでもなかったりと

ストーリー進行の都合で、いろんな役を割り振られるので
分裂症かと思うほど一貫性の無い言動になっています。

これが瑞穂の場合はどうかと言うと、完全オリジナルキャラの
西島耕輔と較べて、原作エピソードとオリジナル設定の間を
行き来する事になる瑞穂は、西島ほど大胆なオリジナルの
演出が加えられる事も無く、かと言って原作に忠実でもない。
という、非常に中途半端なキャラクター描写になっています。

この作品に関する雑誌のインタビューで仲間由紀恵さんは
”自然な感情表現”をテーマに”抑え目の演技”を心がける。
というような抱負をアツク語られていた事がありますが

瑞穂の心理がイマイチ我々に伝わって来なかったのも
仲間さんが平野瑞穂を演じる事を難しいと感じたのも
別に仲間さんの演技力のせいだけではないと思います。

おまけに、ドラマ放送開始前に高橋萬彦プロデューサーの
”ケイゾクみたいな作品にしたい”という発言があったので
”ケイゾク”のようなスリルのある展開を期待して1話を見たら

映像・SEがまるっきりケイゾク風という
腰砕けなオチがついただけでなく

オマージュとかパロディであると感じさせる表現がないので
堤幸彦監督の演出技法のパクリである事も認めようとしない
往生際の悪さもチラチラと垣間見えた気がいたしました。

要するに仲間由紀恵さんや京野ことみさんにしてみれば
平野瑞穂、神崎加奈子というキャラクターを演じる事は

英国製の帆船模型の箱を渡されてフタを開けてみたら
中にはナゼか中国語で書かれた意味不明な設計図と
デキの悪いパーツがグチャグチャの状態で入っていて
良く見たら、戦車やガンダムのパーツも混ざっていた。

と、いうような感じだったのではないかと思います。

ドラマ『顔』の最終回は、平野瑞穂が西島耕輔の『顔』を
描けるようになるところで終わりますが・・・・

ワタシにゃ最後まで瑞穂の
『顔』も見えずじまいでした。

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